扉温泉で、お婆さん・お爺さんの激しくも温かいおもてなしを受けた。
休憩室に入って目が合うなり、
『これ食べるかい?』から始まって、
『これも食べなさい?』
『これも食べられるでしょ?』
『あんたいくつなの?』
『お茶飲むかい?』
『一人で来たのかい?』
『お茶まだあるかい?』
机の上には、あっという間に食べきれない程の手料理が並ぶ。
漬け物・煮物・おにぎり・饅頭・干し柿・お菓子…
学生時代にバイト先のおばあちゃん達が食べさせてくれた、あの懐かしい味。
でもゆっくりは食べさせてくれない。
質問と差し入れをかいくぐり、お婆さん・お爺さん達は何の集まりなのか聞いてみた。
出てきたのが『無尽』という聞き慣れない言葉。
例えば、10人仲間を集めて会を立ち上げる。
毎月メンバーが集まって、全員が1万円を会に預けると同時に、1人だけが12万円を貰う。
誰が貰うかはみんなで話し合って決める。決めごとはこれだけ。
つまり、決まったお金がメンバーの中で動くだけで、増えもしないし減りもしない。一瞬何のメリットがあるんだろうかと考え込んでしまうけど、金銭的にはメリットがない…というのがこのシステムのすばらしいところ。
毎月1万円なら積み立てられる。お金に困った時にはみんなに説明して、まとまったお金を一時的に手にすることもできる。定期的に集まることで、お互いの近況がわかり合える。お金が絡むことで、責任感も生まれる。
とにかく、損も徳もしないこのルールをきっかけに顔を合わせて集まることこそが目的なんだろう。このひたすら明るく仲のいいお婆さん・お爺さん達を見てわかるのは、損も徳もしないこの『無尽』システムが、老人社会ではうまく機能しているということ。